(1)思い出横丁

                       思い出横丁

 東京から戦後の面影はほとんど消えてしまっている。当たり前だ、もう敗戦から70年も経っているのだから。しかし、新宿駅西口に在ったというマーケット街、飲み屋街の面影がまだわずかに残っている。その飲み屋街は「小便横丁」と呼ばれていたのだけど、あまりにひどい名前だということで近年「思い出横丁」と改称された。新宿が根城のぼくには、ここに色々の思い出がある。まだ捕鯨が禁止される前は、安価なタンパク源だった「鯨カツ」をよく食べに来た。また、おかずが山盛りで並んでいる食堂も何軒かあり、その1軒の「つるかめ食堂」にもよく来た。飲むというと「金玉屋」が多かった。店名の由来は豚の睾丸などゲテモノ料理を多く出すところから来た。そこのおやじは商売物をよく食べてでもいるのだろうか、禿げた頭がテカテカと光り、いかにも精力がみなぎっているようなおやじだった。今は、もうその店に行くこともないが、懐かしくて横丁はよく通り抜ける。代が代わったのか金玉屋は若い青年が仕切っているのが見えた。

(文:海千、写真:南岳)